外はない[#「神秘界は」〜「感じる外はない」に白三角傍点]ので、そこに美もあるし、面白味もあるし、生命もあることになる。
 僕がたとへば一愛人を得たとする。その得たのは、自分が自分の自由意志を以て撰定した樣だが、その實、之に施す接吻は、幾多の靈が、自分の知らないうちに、行はうとして待つて居た接吻である。この遺傳はたゞ現世の祖先からばかりではない、數千世紀の以前から、無形の間に傳つて來る。遺傳と意志と運命と[#「遺傳と意志と運命と」に白三角傍点]、これがメーテルリンクの神秘説を一貫して居る要目であつて――過去は遺傳で以つて僕等に傳はるし、僕等の未來は運命が既に定めてある,この間にあつて、意志が現世を抱いて深い海の底に沈むとすれば、たとへば一つの小い島の樣で、前後二つの和合しない大海が、その岸邊に寄せ合つて、互ひに噛み合ひをする。僕等の靈魂内はまことに騷々しいものだが[#「僕等の靈魂内はまことに騷々しいものだが」に傍点]、無言[#「無言」に白三角傍点]――神秘の星[#「神秘の星」に白三角傍点]――があつて、その上に住つて居るので、之が甘く統御して行く[#「があつて」〜「統御して行く」に傍点
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