りましょう。」と言うと、「実はその、今日墓石を建てて貰った。ところがその戒名《かいみょう》の字が一字違っている。『本』という字が『木』になっている。しかし家《うち》の連中《やつら》は女子供ばかりだから屹度《きっと》気が着《つ》かぬに相違ない。お前に頼むから『木』の字を『本』に直してくれ」と云った。
それから、妙善は、
「ええ那様《そんな》事なら訳はないです。それじゃ明朝《あした》、左《と》に右《かく》行って、検《しら》べてみて直しますが、そう云う事は長念寺の和尚《おしょう》の処《ところ》へも行って、次手《ついで》にお談《はなし》なすったら可《い》いでしよう。」と言うと、「そうか、それじゃ帰りに一寸《ちょっと》寄って、話して行こう。」と言ったそうです。
その時お寺で素麪《そうめん》が煮てあったんです。それから、「これは不味《まず》い物ですけれど」ってその梵妻《だいこく》が持って来たんです。そうしてそれをその死人《しにん》の前へ出した。
すると、「これは非常に旨《うま》い。」と言ってその素麪《そうめん》を食べてしまった。そうして、「宜《よろ》しく頼む。」と言って、幽霊は帰って行ってし
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