まった。
 後で妙善は、もし幽霊ならば本当に食える筈はない。お茶を飲んで、素麪《そうめん》を食ったのは些《ち》と怪しい――と考えた。
 で、よくよく座敷の中を検《しら》べてみると、その座敷の隅々《すみずみ》、四隅《よすみ》の処《ところ》に、素麪《そうめん》とお茶が少しずつ、雫《こぼ》したように置いてあった。
 それで、どうしてもこれは狐や狸の業《わざ》ではない。確かに幽霊だろうとその妙善は思ったんです。
 それから翌日になりまして、長念寺の和尚《おしょう》の処《ところ》へ、妙善が出掛けて行った。そして、昨夜《ゆうべ》その何某《なにがし》がやって来て、実は是々《これこれ》こう云う事があったが、お前の方へも来たかと聞いてみたんです。
 やっぱり此方《こっち》にもちゃんと来ておる。そして、その時刻が、丁度《ちょうど》天総寺の方からこの長念寺に歩いて来るだけの時刻を隔ててやって来ている。そうして、その和尚《おしょう》にもちゃんと頼んだんだそうです。
 それから二人は、「まあ左《と》に右《かく》行ってみよう」と云って、一緒に墓所へ出掛けて行った。見ると、果《はた》して、墓石の字の、「本」が「木」
前へ 次へ
全5ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
本田 親二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング