てた晩に――死んだ人の親友に、妙善《みょうぜん》と云う僧侶《ぼうず》がある、これは別の天総寺《てんそうじ》という寺に、住職をしていました――その天総寺の門前へ来て、「妙善妙善。」と呼ぶ声がする。
その声が如何《いか》にも死んだ人の声に似ている。いつもその天総寺へ遊びに来る度《たんび》に、そう云う風にその人は呼んでいたそうです。
で、如何《いか》にもその声が似ているから、妙善は「まあお入《はい》んなさい。」と言ったんですね。そうすると、その人は入って来たんです。白装束のまんま、死んだ時の姿で、そうして庫裡《くり》へ上《あが》って来た。
ちゃんと座敷へ入って、坐蒲団の上へ坐ったそうです。
で、普通の挨拶をしたんですね、何と挨拶をしたか、それは知らないが。
その時、その妙善の梵妻《だいこく》が、お茶を持って入って来たんです。で、左《と》に右《かく》夫妻《ふたり》とも判然《はっきり》見た。
それから、その、梵妻《だいこと》の持って来たお茶を、その死人が飲み乾《ほ》したんです。そして、
「今夜少しお願いがあって来た。」と言ったんです。
「甚麼《どんな》事ですか、出来る事なら、何でもや
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