しない
事實は事實だ
けれどもう一切は過去になつた
足もとからするすると
そしてもはや自分との間には距離がある
そしてそれはだんだん遠のきつつ
いまは一種の幻影だ
記憶よ、そんなものには網打つな

おお大罪惡の幻影!
罪惡はうつくしい
あの大罪惡も吸ひついた蛭のやうにして犯したんだ
けれどその行爲につながる粘粘した醜い感覺
それでもあのまつ暗なぬるぬるしてゐる深い穴から
でてきた時にはほつ[#「ほつ」に傍点]とした
そして危く此の口からすべらすところであつた
この涎と甘いくちつけにけがれた唇から
おお神よと
そして私は身震ひした
それはさて、こんやの時計ののろのろしさはどうだ
迅速に推移しろ
ああ睡い睡い
遠方で一ばん鷄《どり》がないてゐる
もう目がみえない
黎明は何處《どこ》までちかづいて來てゐるか
このままぐつすり寢て起きると
そこに新しい人間がある
ゆふべのことなどわすれてしまつて
はつきりと目ざめ
おきいで
大空でもさしあげるやうな脊伸び
全身につたはる力よ
新しい人間の自分
それがほんとの自分なんだ
此の泥醉と懊惱と疲勞とから
そこから生れでる新しい人間をおもへ!
彼が其時吸
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