間の生きのよろこびはある
人間の生きのよろこびよ
強きものにのみ此の世界はうつくしいのだ
かくして峻嚴な一日ははじまり
かくして人間の一日は終る
強くあれ

  病める者へ贈物としての詩

林檎より美しいもの
かすてら[#「かすてら」に傍点]より柔いもの
此の愛をそなたにおくるのだ
此の愛を
雪のやうな此の愛
落葉《おちば》のやうにはらはらと
そなたの上に飜へる
そなたはそれをどうみるか
風の中なる私の愛を……
何といふ冷い手だ
何といふさみしい目だ
おお病める者
そなたのためには純白な雪
そして火のやうな私だ
この愛の中で穀物の種子《たね》のやうな強き生《いのち》をとりかへせ
光りを感じ
しづかに生き

  或る日曜日の詩

雪を純白《まつしろ》にいただいた遠方の山山をみつめてゐると
指指の尖から冴えてくるやうだ
ぎらぎら油ぎつて光る
椿や樫の葉つぱ
冷い風に枯草が鳴る
地に伏して鳴る
木木は骸骨のやうだ
その梢の嗄れた生きもののやうな聲聲

險惡な空はせはしさうだ
雲と雲との描く
田畠の上をはしる陰影《かげ》

とろりとした日だまり
ひさしぶりで來てみる公園はすつかり荒れはてた

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