老嫗《ばあ》さんをみてきた
その晩、自分はゆめをみた
細い雨がしつとりふりだし
種子は一齊に青青と
芽をふき
ばあさんは蹙め面《づら》をして
その路端に死んでゐた

  彼等は善い友達である

結氷したやうな冬の空
その下で渦捲く烈風
山山は雪でまつ白である
晝でもほの暗い
ひろびろとした北國の寒田に
馬と人と小さく動いてゐる
はるかに遠く此處では
馬と人と
なんといふ睦じさだ
そして相互《たがひ》に助けあつて生きてゐる
寒田は犂きかへされる
犂きかへされた刈株の田の面はあたらしく黒黒と
その上に鴉が四羽五羽
どこからきたのか
此のむごたらしい景色の中にまひおりて
鴉等は鳴きもせず
けふばかりは善い友達となつて働いてゐる
なにを求めて馬や人といつしよになつてゐるのか
それが此處からはつきり見える
田の畦の枯れたやうな木木までが苦痛を共にしてゐるやうだ

  父上のおん手の詩

そうだ
父の手は手といふよりも寧ろ大きな馬鋤《からすき》だ
合掌することもなければ
無論|他人《ひと》のものを盜掠《かす》めることも知らない手
生れたままの百姓の手
まるで地べたの中からでも掘りだした木の根つこの
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