やうな手だ
人間のこれがまことの手であるか
ひとは自分の父を馬鹿だといふ
ひとは自分の父を聖人だといふ
なんでもいい
唯その父の手をおもふと自分の胸は一ぱいになる
その手をみると自分はなみだで洗ひたくなる
然しその手は自分を力強くする
この手が母を抱擁《だきし》めたのだ
そこから自分はでてきたのだ
此處からは遠い遠い山の麓のふるさとに
いまもその手は骨と皮ばかりになつて
猶もこの寒天の痩せた畑地を耕作《たがや》してゐる
ああ自分は何にも言はない
自分はその土だらけの手をとつて押し戴き
此處ではるかにその手に熱い接吻《くちつけ》をしてゐる
或る朝の詩
冬も十二月となれば
都會の街角は鋭くなる……
曲つた木
うすぐらい險惡な雲がみえると
すぐ野の木木はみがまへする
曲りくねつた此の木木
ねぢれくるはせたのは風のしわざだ
そしてふたたびすんなりとは
どうしてもなれない
そのかなしさが
いまはこの木の性となつたのか
風のはげしい此處の曲りくねつた頑固な木木
骨のやうにつつぱつた梢にも雨が降り
それでも芽をつけ
小鳥をさへづらせる
まがりなりにも立派であれ
ああ野にあつて裸の立木
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