きりきり百舌鳥《もず》がさけんでゐる
けろりとした小春日和
けろりとはれた此の蒼空よ
此のひろびろとした蒼空をあふいで耻ぢろ
大暴風が汝等のあたまの上を過ぐる時
汝等は何をしてゐた
その大暴風が汝等に呼びさまさうとしたのは何か
汝等はしらない
汝等の中にふかく睡つてゐるものを
そして汝等はおそれおののき兩手で耳をおさへてゐた
なんといふみぐるしさだ
人間であることをわすれてあつたか
人間であるからに恥ぢよと
けろりとはれ
あたらしく痛痛しいほどさつぱりとした蒼空
その下で汝等はもうあらし[#「あらし」に傍点]も何も打ちわすれて
ごろごろと地上に落ちて轉つてゐる果實《きのみ》
泥だらけの青い果實をひろつてゐる

  雪ふり蟲

いちはやく
こどもはみつけた
とんでゐる雪ふり蟲を
而も私はまだ
一つのことを考へてゐる

  冬近く

お前の目はふかい
それはまるで淵のやうだ
冬近く
その目の中にぽつちり……
ぽつちりと點じた一つの灯を思へ
此の眞實に生きよ
いまは薄暮である
此のさびしさを愛せよ

  蟋蟀

記憶せよ
あの夜のことを
あの暴風雨を
あの暴風雨にも鳴きやめず
ほそぼそと力
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