自分はさみしく考へてゐる
ひとびとを喜ばすのは善いことである
自分をよろこばすのは更に善いことである
ひとびとをよろこばすことは
或は出來るかも知れぬ
自分をよろこばすことは大切であるが容易でない
物といふあらゆる物の正しさ
みなその位置を正しく占めてゐる秋の一日
すつきりと冴えた此の手よ
痩せほそつた指指よ
こんなことを自分はひとり考へてゐる
なんといふさみしい自分の陰影《かげ》であらう
  蝗
くるしみはうつくしい
人間の此の生きのくるしみ
これは人間ばかりでない
これが自然の深い大きな意志であるのか
深藍色にすつきりとした空
秋の日のうすらさみしさ
あちらこちらの畦畦にみすぼらしい彼等をみよ
女達と子ども等と
その手をのがれて逃げまどふ蝗蟲《いなご》を
ひつそりと貧しい村村
ながながしい鷄の聲
田の面はひろびろと凪ぎ
蝗蟲がぴよんぴよん飛んでゐる
それをつかまへようとしてあらそひ
それを追つ驅けまはしてゐる彼等
しきりにぴよんぴよんと
弱弱しい晝過ぎの光線を亂してとんでゐる
そしてまんまと捕へられる蝗蟲よ
  愛の力
穀物に重い穗首をたれさせる愛のちからは大きい
赤赤 
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