燈線のいたるところで
黄金色に匂ふ燭光のうつくしさよ
黄金色に匂ふ千萬の燭光
みろ
都會はまるで晝のやうだ
だいあもんど[#「だいあもんど」に傍点]がなんだ
るびい[#「るびい」に傍点]がなんだ
此の壯麗な都會の街街家家
ここに棲む人間なればこそどんな苦みをも耐へるのだ
ここにすむ人間の幸福
ああ何もいらない
此の壯麗に匹敵するものは何か
此の幸福の上にあつて
都會は生きてゐる
よるのふけるにしたがつて
よるがふければふけるほど
だんだん都會は美しく光りかがやき
ここで疲れた人間が神神のやうに嚴かな眼瞼《まぶた》を靜にとぢるのだ
此のうつくしさは生きてゐる

  握手

どうしたといふのだ
そのみすぼらしいしをれやうは
そのげつそりと痩せたところはまるで根のない草のやうだ
おい兄弟
どうしたといふのだ
何はともあれ握手をもつてはじめることだ
さあその手をだしたまへ
しつかりと自分が握つてやる
大麥を刈りとつた畠に
これはいま秋そば[#「そば」に傍点]を播きつけてきた手だ
どんなことでもしつてゐる手だ
どんなことにも耐へてきた手だ
土臭いとて顏を蹙めるな
此の手は君に確信を與へる
ぐつと
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