百合がさいてゐる
紺青色の天《そら》よりわたしの手は冷い
友よ
おん身のまづしさは酷すぎる
而もおん身の落窪んだその目のおくに眞實は汚れない
生《いのち》を知れ
友よ
人間は此の大きな自然のなかで銘銘に苦んでゐるのだ
しづかに行け
此の世界のはじめもこんなであつたか
うすむらさきのもやのはれゆく
海をみろ
此のすきとほつた海の感覺
ああ此の黎明
この世界のはじめもこんなであつたか
さざなみのうちよせるなぎさから
ひろびろとした海にむかつて
一人のとしよつた漁夫がその掌《て》をあはせてゐる
渚につけた千鳥のあしあともはつきりと
けさ海は靜穩《おだや》かである
ひとりごと
一日中のはげしい勞働によつて
ぐつたりとつかれた體躯《からだ》
今朝《けさ》みると
むくむくと肥え太り
それがなみなみと力を漲らしてゐる
そしてあふれるばかりになつてゐる
それは大きな水槽が綺麗な水を一ぱいたたへてゐるやうだ
たらたらと水槽には筧の水がしたたるのだが
おお此の肉體の力はよ
それは眠つてゐるまに何處《どこ》から來たか
力はあふれる水のやうなものだ
肉體から充ちあふれさうな此の力
それをまた
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