うち[#「みうち」に傍点]に湧いてくる大きな力
ぐたぐたになつてゐた體躯《からだ》もどつしりと
だがその腕をみようとはするな
見ようとすれば忽ちに力は消えてなくなるのだ
盲者《めくら》のやうに信じてあれ
ああ生きのくるしみ
その激しさにひとしほ強くその腕を自分は感ずる
幸《さち》薄《うす》しとて呟くな
どこかに大きな腕があるのだ
人間よ
此のみえない腕をまくらにやすらかに
抱かれて眠れ

  先驅者の詩

此の道をゆけ
此のおそろしい嵐の道を
はしれ
大きな力をふかぶかと
彼方《かなた》に感じ
彼方をめがけ
わき目もふらず
ふりかへらず
邪魔するものは家でも木でもけちらして
あらしのやうに
そのあとのことなど問ふな
勇敢であれ
それでいい

 ※[#ローマ数字6、1−13−26]


  秋ぐち
    〔TO K.TO^YAMA.〕

さみしい妻子をひきつれて
遙遙とともは此地を去る
渡り鳥よりいちはやく
そして何處《どこ》へ行かうとするのか
そのあしもとから曳くたよりない陰影《かげ》
そのかげを風に搖らすな
秋ぐちのうみぎしに
錨はあかく錆びてゐる
みあげるやうな崖の上には桔梗や山
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