らみればなにもかもがらりとかはつた
だがいつみてもいいのは
此のひろびろとした大空だけだぞい
わすれもしねえ
この大空にまん圓い月がでると
穀倉のうしろの暗い物蔭で
俺等《おいら》はたのしい逢引をしたもんだ
そこで汝《われ》あみごもつたんだ
何をかくすべえ
穀倉がどんな事でも知つてらあ
さうして草も燒けるやうな炎天の麥畑で
われあ生み落とされたんだ
それもこれもみんな天道樣がご承知の上のこつた
おいらはいつもかうして貧乏だが
われは秣草《まぐさ》をうんと喰らつた犢牛《こうし》のやうに肥え太つてけつかる
犢牛のやうに強くなるこつた
うちの媼《ばばあ》もまだほんの尼つちよだつた
その抱き馴れねえ膝の上で
われあよく寢くさつた
それをみるのが俺等《おいら》はどんなにうれしかつたか
そして目がさめせえすれば
山犬のやうに吼えたてたもんだ
其處にはわれが目のさめるのを色色《いろん》な玩具《おもちや》がまつてただ
なんだとわれあおもふ
そこのその大きな鍬だ
それから納屋にあるあの犁と
壁に懸つてゐるあの大鎌だ
さあこれからは汝《われ》の番だ
おいらが先祖代代のこの荒れた畑地を
われあそのいろんなお
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