る。
 自分等が稍ともすると新しきを求むる忙しさに古きを忘れんとして気のつく如く、氏も自然に馴れ、知らずして年齢に屈服し、古きになづんで新しきもののいらいら[#「いらいら」に傍点]せるを嫌ふのではあるまいか。
 自分は新しきものに古い生命を見る。そしてたゞひたすらの生命の退き滞ることなき進行を肯定する。そこに生命としての人間のジユビレヱシヨンを感ずる。
 あなたはサンボリストですか。
 さう、何でせう。――どれにも通じてゐるかも知れません。
 わたしは此の村を見るまで、多少あなたをサンボリツクな画家として、その作品をいつも拝見してゐましたが……。
 へええ。
 いまは或は忠実な自然描写、と言つてもあの所謂自然主義者のそれとは区別してをりますが、其の基調として――では無いかとも思つてをります。
 へええ。
 何となく此の村の自然(形象とし雰囲気としての)がさう私に囁くやうなのです。
 へええ。
 沈黙がすこし続いた。互に、自らの本然世界にしばし帰つたのである。空はます/\陰険になつてきた。夜も闌けてきた。
 沼へでも出かけるといゝんですがね、あいにく今夜は月がない。
 沼つて、いつか虚子
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