のかいた河童の宿の中のあれですか。
 ええ。
 またそのうちにゆつくりおたづねする時までお預けにしておきませう。
 ええ。
 お邪魔を詫びて立つと、お嬢さんが大きな定紋の附いた提灯にひをいれて渡してくれた。芋銭氏は「そこまで見てあげませう。道がわかりにくいから」つて、初めてではあるが長い間の知己ででもあるやうに、深切で、その物言ひぶりまで馴れなれしかつた。さつきのお嫗さんのおばけの所あたりまでくると雨がざあつとやつて来たので、傘を持たない氏は帰られた。
 現在の間口ばかりの画家の中に氏のやうな真摯な芸術家のあることを自分はよろこぶのである。氏に大きな代表的作品のないのは惜しいが、自分は氏をその理由で責めたくない。またどうしてそれが責められよう。そこに何かがある。それが氏の偉大であらう。自分は、よみ返すと随分不遜なことをかいたやうであるが、結局、自分は氏を単なる芸術家とみない。芸術の生活者としてうらやみ、且つ尊敬する。
 自分は、さらに形象の要素と内容の要素との結合に就て、及び形象の稍々複雑となり其の複雑なる内容と並行発展する時、作品の譬喩もしくは寓意となるの過程、ならびに形象の各部がこ
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