」、第4水準2−12−1]の中から眼をこすりながらでて来られた。もう宵ではない。
芋銭氏はかやの隅、自分は縁側の板敷。自分のしき物の下にはたくさん西瓜の種子がこぼれてゐた。
※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]のうしろで桑を刻むやうな音がして、しばらくすると茶がでた。盆の皿には西京の八橋煎餅。
対話は旅行にはじまつた。それから創作、古美術、名所、旧跡、文展、新画風、生活、自然と、案外|論理的《ロジカル》に運ばれた。
芋銭氏はたゞの漫画家ではない。それが自分等には歯痒ゆきところはあれど自然と人生の交渉に禅的ユニテイの味識を説き、ゴツホ、ゴウガンさてはキユビズムの名をみとめて而も文晁、宗達の存在をわすれざるところ、創作は生活であるといふに於ても氏は自分等の遥かに及ばぬ直接[#「直接」に傍点]をもつてゐる。
氏は鍬を取るであらう、よし鍬を採らぬにしろ、氏は到底、土より生れいでた人間である。その風貌を一見した時、自分はすぐにゴツホを聯想したのである。氏は日本のゴツホである。巴里に住まぬゴツホ、東京を嫌ふゴツホ、あのゴツホが血だらけのゴツホなら、此のゴツホは土だらけのゴツホである。
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