あらう、してゐる家もあつたが、大勢、男や女がゐるその前へ立つのにはあまりに自分は気が小さ過ぎた。樫の木などが亭々と矗立してゐるかとみれば、芒などが足もとで揺れてゐる。虫が肩にまで飛び附いてきて鳴いてゐる。店頭の土間に南瓜や西瓜をたくさん並べて、その上には柄杓だの箒だのをぶらさげておく店のお爺さんがふらりと出てきた。そして持つてゐた団扇の柄でをしへてくれた。すこし歩くまにお化がのつそりでた。びつくりして立止まるとそのお化が「こんばんは」と言つた。綺麗な女ではなかつた。なるほど芋銭氏の村は、その作品そつくりだと思つた。気味が悪くなつたので駆けだした。からつと開けつぱなした家では、こゝにも大勢集まつて高話の最中であつた。
ちよつと伺ひます。
………。
小川さんのお宅はこの辺でせうか。
む。お前はだれだい。
あの画をかく小川さんです……。
ああ、それか。今時分、なんだい。それや此の次の屋根の瓦の家だよ。
さうですか、ありがたう。
垣をへだて、桑畑をへだてての、田舎でなければ不可能な問答である。
さて漸くのことで到着した。芋銭氏はすでにおやすみであつたが、それでも※[#「巾+廚
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