をいれた
それからおもひだしたやうに
かたはらのお櫃を覗いてみて
さびしくほほゑみ
その茶をざぶりぶつかけて
さらさらと
冷飯を食べた
朝顏よ
さうだつたらう
渠《かれ》には、妻も子もなかつた

  おなじく

まんづ、まんづ
この餓鬼奴《がきめ》はどうしたもんだべ
脊中で
おつかねえやうだよ
朝顏の花喰ひたがつてるだあよ

  驟雨

沼の上を
驟雨がとほる
そのずつとたかいところでは
雲雀が一つさへづつてゐる
ぐツつら
ぐツつら
馬鈴薯《じやがたらいも》が煮えたつた

  おなじく

驟雨は
ぐつしよりとぬらした
馬もうまかたも
おんなじやうに

  病牀の詩

朝である
一つ一つの水玉が
葉末葉末にひかつてゐる
こころをこめて

ああ、勿體なし
そのひとつびとつよ

  おなじく

よくよくみると
その瞳《め》の中には
黄金《きん》の小さな阿彌陀樣が
ちらちらうつつてゐるやうだ
玲子よ
千草よ
とうちやんと呼んでくれるか
自分は耻ぢる

  おなじく

ああ、もつたいなし
もつたいなし
けさもまた粥をいただき
朝顏の花をながめる
妻よ
生きながらへねばならぬことを
自分ははつきり
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