大竹藪の眞晝は
ひつそりとしてゐる
この梅の
小枝を一つ
もらつてゆきますよ

  山逕にて

善い季節になつたので
※[#「くさかんむり/刺」、第3水準1−90−91]《ばら》などまでがもう
みち一ぱいに匍ひだしてゐた
けふ、山みちで
自分はそのばらに
からみつかれて
脛をしたたかひつかかれた

  ある時

まあ、まあ
どこまで深い靄だらう
そこにもここにも
木が人のやうにたつてゐる
あたまのてつぺんでは
艪の音がしてゐる
ぎいい、ぎいい
さうかとおもつてきいてゐると
雲雀《ひばり》が一つさへづつてゐる
これでいいのか
春だとはいへ
ああ、すこし幸福すぎて
寂しいやうな氣がする

  ある時

麥の畝々までが
もくもく
もくもく
匍ひだしさうにみえる
さあ
どうしよう

  ある時

うす濁つたけむりではあるが
一すぢほそぼそとあがつてゐる
たかくたかく
とほくの
とほくの
山かげから
青天《あをぞら》をめがけて
けむりにも心があるのか
けふは、まあ
なんといふ靜穩《おだやか》な日だらう

  櫻

さくらだといふ
春だといふ
一寸、お待ち
どこかに
泣いてる人もあらうに

  
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