おなじく

馬鹿にならねば
ほんとに春にはあへないさうだ
笛よ、太鼓よ
さくらをよそに
だれだらう
月なんか見てゐる

  お爺さん

滿開の桃の小枝を
とろりとした目で眺めながら
うれしさうにもつてとほつた
あのお爺さん
にこにこするたんびに
花のはうでもうれしいのか
ひらひらとその花瓣《はなびら》をちらした
あのお爺さん
どこかでみたやうな

  ある時

あらしだ
あらしだ
花よ、みんな蝶々にでもなつて
舞ひたつてしまはないか

  ある時

自分はきいた
朝霧の中で
森のからすの
たがひのすがたがみつからないで
よびかはしてゐたのを

  ある時

朝靄の中で
ゆきあつたのは
しつとりぬれた野菜車さ
大きな脊なかの
めざめたばかりの
あかんぼさ
けふは、なんだか
いいことのありさうな氣がする

  ある時

松ばやしのうへは
とつても深い青空で
一ところ
大きな牡丹の花のやうなところがある
こどもらの聲がきこえる
あのなかに
うちのこどももゐるんだな

  朝

なんといふ麗かな朝だらうよ
娘達の一|塊《かたまり》がみちばたで
たちばなししてゐる
うれしさうにわらつてゐる
そこ
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