おなじく

わたしが病んで
ねてゐると
蜻蛉《とんぼ》がきてはのぞいてみた
のぞいてみた
朝に夕に
ときどきは晝日中も
きてはのぞいてみていつた

  おなじく

蠅もたくさん
いつものやうにゐるにはゐたが
かうしてやんでねてゐると
一ぴき
一ぴき
馴染のふかい友達である

  椎の葉

自分は森に
この一枚の木の葉を
ひろひにきたのではなかつた
おう、椎の葉である

  ある時

どこだらう
蟇《ひき》ででもあるかな
そら、ぐうぐう
ぐうぐう
ぐうぐう
ほんとにどこだらう
いくら春さきだつて
こんなまつくらな晩ではないか
遠く近く
なあ、なあ、土の聲だのに

  ほそぼそと

ほそぼそと
松の梢にかかるもの
煮炊《にたき》のけむりよ
あさゆふの
かすみである

  こんな老木になつても

こんな老木になつても
春だけはわすれないんだ
御覽よ
まあ、紅梅だよ

  梅

ほのかな
深い宵闇である
どこかに
どこかに
梅の木がある
どうだい
星がこぼれるやうだ
白梅だらうの
どこに
さいてゐるんだらう

  おなじく

おい、そつと
そつと
しづかに
梅の匂ひだ

  おなじく

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