見届けてやろうと思って簾《すだれ》から庭の外を見たが、闇に四隣寂寥《しりんせきりょう》として手燭《てしょく》の弱い燈《ひ》に照らされた木立の影が長く地に印《いん》せられて時々桐の葉の落ちる音がサラサラとするばかり、別に何物も見えない。これは矢張《やはり》自分の迷《まよい》であったかと思って、悠然と其処《そこ》を出て、手を洗って手拭《てぬぐい》で手を拭きながら、一寸《ちょっと》庭を見ると彼は呀《あっ》と驚いた、また立っていたのだ、同じ顔、同じ姿でしかも黙って此方《こっち》を向いて今にも自分の方へ来そうなので、もう彼も堪《たま》らなくなったから、急いで母家《おもや》へ駆けこんで床《とこ》へ入ったが、この晩は、とうとう一晩、如何《どう》しても寝られないので仕方なく徹夜《よあかし》をした。
 一度ならず二度までもあまりといえば不思議なので翌朝《よくあさ》彼は直《すぐ》に家主《いえぬし》の家へ行った、家主《やぬし》の親爺《おやじ》に会って今日まであった事を一部始終|談《はな》して、一躰《いったい》自分の以前には如何《どん》な人が住んでおったかと訊ねたが、初めの内は言《げん》を左右にして中々《なか
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