前に円窓《まるまど》があって、それに簾《すだれ》が懸《かか》っている、蹲踞《しゃが》んでいながら寝《ね》むいので何を考えるでもなく、うとうととしていると何だか急にゾーッと悪寒《さむけ》を覚えたので思わず窓の簾越《すだれごし》に庭の方を見るとハット吃驚《びっくり》した、外の椽側《えんがわ》に置いた手燭《てしょく》の燈《ひ》が暗い庭を斜《ななめ》に照らしているその木犀《もくせい》の樹の傍《そば》に洗晒《あらいざら》しの浴衣《ゆかた》を着た一人の老婆が立っていたのだ、顔色は真蒼《まっさお》で頬は瘠《こ》け、眼は窪み、白髪交《しらがまじ》りの髪は乱れているまで判然《はっきり》見える、だがその男にはついぞ見覚えがなかった、浴衣《ゆかた》の模様もよく見えたが、その時は不思議にも口はきけず、そこそこに出て手も洗わずに母家《おもや》の方へ来て寝た、しかし床《とこ》へ入っても中々《なかなか》寝られないが彼はそれまでこんな事はあんまり信じなかったので、或《あるい》は近所の瘋癲老婆《きちがいばばあ》が裏木戸からでも庭へ入って来ていたのではないかと思ってそれなりに寝てしまった。翌朝になると早速《さっそく》裏木
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