与えざるも泣《なく》こと無く、加之《しかのみならず》子供が肥太《こえふと》りて、無事に成長せしは、珍と云うべし。

◎伊賀《いが》の上野《うえの》は旧|藤堂《とうどう》侯の領分だが藩政の頃|犯状《はんじょう》明《あきら》かならず、去迚《さりとて》放還《ほうかん》も為し難き、俗に行悩《ゆきなや》みの咎人《とがにん》ある時は、本城《ほんじょう》伊勢《いせ》の安濃津《あのつ》へ差送《さしおく》ると号《ごう》し、途中に於《おい》て護送者が男は陰嚢《いんのう》女は乳《ちち》を打《うっ》て即死せしめ、死骸を路傍の穴へ蹴込《けこみ》て、落着《らくちゃく》せしむる事あり、或《ある》時亭主殺しの疑いある女にて、繋獄《けいごく》三年に及ぶも証拠|上《あが》らずされば迚《とて》追放にもなし難く、例の通りこの刑を行《おこな》いしが、その婦人の霊、護送者の家へ尋ね行き、今日《こんにち》は御主人にお手数《てかず》を掛《かけ》たり、御帰宅あらば宜敷《よろしく》と云置《いいお》き、忽《たちま》ち影を見失いぬ、妻不思議に思いいるところへ、主人《あるじ》帰り来《きた》りしかば、こうこうと物語りしに、主人《あるじ》色を変じ
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