ぎの貧棒人《びんぼうにん》とて、里子に遣《や》る手当《てあて》も出来ず、乳が足《たり》ぬので泣《なき》せがむ子を、貰《もら》い乳《ちち》して養いおりしが、始終子供に斗《ばか》り掛《かか》っていれば生活が出来ないから、拠無《よんどころな》くこの児《こ》を寐《ね》かしつけ、泣《ない》たらこれを与えてくれと、おもゆ[#「おもゆ」に傍点]を拵《こしら》えて隣家の女房に頼み、心ならずも商《あきな》いをしまい夕方帰《かえっ》て留守中の容子《ようす》を聞くと、例《いつ》も灯《ひ》の付《つく》ように泣児《なくこ》が、一日一回も泣《なか》ぬと言《いわ》れ、不審ながらも悦《よろこ》んで、それからもその通りにして毎日、商《あきな》いに出向《でむく》に何《なに》とても、留守中一回も泣《ない》た事が無く、しかも肥太《こえふと》りて丈夫に育つ事、あまりに不思議と、我も思えば人も思い、段々《だんだん》噂が高くなり、遂《つい》には母の亡霊|来《きた》りて、乳を呑《のま》すのだと云うこと、大評判となり家主より、町奉行所へ訴《うっ》たえ出たる事ありと、或る老人の話しなるが、それか有《あら》ぬか兎《と》に角《かく》、食物を
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