、見詰めおりしが眼元《めもと》口元《くちもと》は勿論《もちろん》、頭の櫛《くし》から衣類までが同様《ひとつ》ゆえ、始めて怪物《かいぶつ》なりと思い、叫喚《あっ》と云って立上《たちあが》る胖響《ものおと》に、女も眼を覚《さま》して起上《おきあが》ると見る間に、一人は消えて一人は残り、何に驚《おど》ろいて起《おき》たのかと聞《きか》れ、実は斯々《これこれ》と伍什《いちぶしじゅう》を語るに、女|不審《いぶかし》げにこのほども或る客と同衾《どうきん》せしに、同じ様な事あり畢竟《ひっきょう》何故《なにゆえ》とも分明《わか》らねど世間に知れれば当楼《このうち》の暖簾《のれん》に疵《きず》が付《つく》べし、この事は当場《このば》ぎり他言は御無用に願うと、依嘱《たのま》れ畏々《おそるおそる》一《ひ》ト夜《よ》を明《あか》したる事ありと、僕に話したが昔時《むかし》の武辺者《ぶへんしゃ》に、似通った逸事《いつじ》の有る事を、何やらの随筆本で見たような気もする。

◎これは些《ちと》古いが、旧幕府の頃|南茅場町《みなみかやばちょう》辺の或る者、乳呑子《ちのみご》を置《おい》て女房に亡《なく》なられ、その日稼
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