》げ容貌堂々|威風凜々《いふうりんりん》たる武者である、某はあまり意外なものに出会い呆然《ぼうぜん》として見詰《みつめ》ているうち、彼《か》の武者は悠々《ゆうゆう》として西の宮の方へ行《いっ》てしまったが、何が為《た》めに深夜こんな形相《ぎょうそう》をして、往来をするのか人間だろうか妖怪だろうか、思えば思うほど、不審が晴れぬと語りしは、今から七八年あとの事である。
◎浅草《あさくさ》の或る寺の住持《じゅうじ》まだ坊主にならぬ壮年の頃|過《あやま》つ事あって生家を追われ、下総《しもうさ》の東金《とうかね》に親類が有るので、当分厄介になる心算《つもり》で出立《しゅったつ》した途中、船橋《ふなばし》と云う所で某《ある》妓楼《ぎろう》へ上《あが》り、相方《あいかた》を定めて熟睡せしが、深夜と思う時分|不斗《ふと》目を覚《さま》して見ると、一人であるべき筈の相方《あいかた》の娼妓《しょうぎ》が両人《ふたり》になり、しかも左右に分《わか》れて能《よ》く眠っているのだ、有る可《べ》き事とも思われず吃驚《びっくり》したが、この人若いに似合《にあわ》ず沈着《おちつい》た質《たち》ゆえ気を鎮《しず》めて
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