う》け、近所へ配って回向《えこう》をしてやったそうだが、配る家が一軒も過不足なく、その数通りであったと云うは一寸《ちょっと》変っている怪談であろう。

◎紀州高野山《きしゅうこうやさん》の道中で、椎出《しいで》から神谷《かみや》の中間に、餓鬼坂《がきざか》と云うがある、霊山を前に迎えて風光明媚《ふうこうめいび》な処《ところ》に、こんな忌々《いまいま》しい名の坂のあるのは、誰でも変に感じられるが四五年以前|或《ある》僧が此処《ここ》で腹を減《へら》し前へも出られず、後へも戻れず、立《たち》すくみになって、非常に弱《よわっ》ていると、参詣の老人がそれを認めて、必然《きっと》餓鬼《がき》が着《き》たのだ何か食うと直《す》ぐ治ると云って、持《もっ》ている饅頭《まんじゅう》を呉《く》れた、僧は悦《よろこ》んで一ツ食《くっ》たが、奈何《いか》にも不思議、気分が平常に復してサッサッと歩いて無事に登山が出来たと話した事があった、此処《ここ》は妙な処《ところ》で馬でも何でも腹が減ると、立《たち》すくみになると云い伝え、毎日何百|疋《ぴき》とも知れず、荷を付けて上り下りをする馬士《まご》まで、まさかの用心
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