に握り飯を携帯《もた》ぬ者は無いとの事だ、考《かん》がえてみると何だか怪しく思われぬでも無い。
◎京都《きょうと》の画工某の家《いえ》は、清水《きよみず》から高台寺《こうだいじ》へ行《ゆ》く間だが、この家の召仕《めしつかい》の僕《ぼく》が不埒《ふらち》を働き、主人の妻と幼児とを絞殺《こうさつ》し、火を放ってその家を焼《やい》た事があるそうだ、ところで犯人も到底《とうてい》知《しれ》ずにはいまいと考え、ほとぼりのさめた頃京都市を脱出《ぬけだ》して、大津《おおつ》まで来た時何か変な事があったが、それを耐《こら》えて土山宿《つちやまじゅく》まで漸《ようや》く落延《おちの》び、同所の大野家《おおのや》と云う旅宿屋《やどや》へ泊ると、下女が三人前の膳を持出《もちだ》し、二人分をやや上座《かみくら》へ据《す》え、残りの膳をその男の前へ直《なお》した、男も不思議に思い、一人の客に三人前の膳を出すのは如何《どう》いう訳だと聞くと、下女は訝《いぶかし》げに三人のお客様ゆえ、三膳出しましたと云《いっ》て、却《かえ》ってこの男を怪《あやし》んだ、爰《ここ》に於《おい》てこの男は主人の妻子が付纏《つきまと》
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