その黒塀に淋しく反響して、恰《ちょうど》自分は何者かに追われておる様ないやな気持がするので、なるべく歩調を早めて歩き出した。
すると、突然自分の足に軽く触れたものがある、ゾーッとしたので見ると、一|疋《ぴき》の白い蝶だ、最早《もう》四辺《あたり》は薄暗いので、よくも解らぬけれど、足下《あしもと》の辺《あたり》を、ただばたばたと羽撃《はうち》をしながら格別《かくべつ》飛びそうにもしない、白い蝶! 自分は幼い時分の寐物語《ねまのかたり》に聞いた、蝶は人の霊魂《たましい》であるというようなことが、深く頭脳にあったので、何だか急に神経が刺戟されて、心臓の鼓動も高ぶった、自分は何だか気味の悪《わ》るいので、裾《すそ》のあたりを持って、それを払うけれど、中々《なかなか》逃げそうにもしない、仕方なしに、足でパッと思切《おもいき》り蹴って、ずんずん歩き出したが二三|間《げん》行《ゆ》くとまた来る、平時《いつも》なら自分は「何こんなもの」と打殺《ぶっころ》したであろうが、如何《どう》した事か、その時ばかりは、そんな気が少しも出ない、何というてよいか、益々《ますます》薄気味が悪《わ》るいので、此度《こん
前へ
次へ
全5ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡田 三郎助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング