白い蝶
岡田三郎助

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)最早《もう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|取払《とりはら》いに
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 友の家を出たのは、最早《もう》夕暮であった、秋の初旬《はじめ》のことで、まだ浴衣《ゆかた》を着ていたが、海の方から吹いて来る風は、さすがに肌寒い、少し雨催《あめもよい》の日で、空には一面に灰色の雲が覆《おお》い拡《ひろが》って、星の光も見えない何となく憂鬱な夕《ゆうべ》だ、四隣《あたり》に燈《ともし》がポツリポツリと見え初《そ》めて、人の顔などが、最早《もう》明白《はっきり》とは解《わか》らず、物の色が凡《すべ》て黄《きい》ろくなる頃であった。
 友の家というのは、芝《しば》の将監橋《しょうげんばし》の側《そば》であるので、豊岡町《とよおかちょう》の私の家へ帰るのには、如何《どう》しても、この河岸通《かしとおり》を通って、赤羽橋《あかばねばし》まで行って、それから三田《みた》の通りへ出なければならないのだ、それはまだ私の学校時代の事だから、彼処《あすこ》らも現今《いま》の様に賑《にぎや》かではなかった
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