、殊《こと》にこの川縁《かわぶち》の通りというのは、一方は癩病《らいびょう》病院の黒い板塀がズーッと長く続いていて、一方の川の端《はし》は材木の置場である、何でも人の噂によると、その当時|取払《とりはら》いになった、伝馬町《でんまちょう》の牢屋敷の木口《きくち》を此処《ここ》へ持って来たとの事で、中には血痕のある木片《きぎれ》なども見た人があるとの談《はなし》であった、癩病《らいびょう》病院に血痕のある木! 誰《た》れしもあまり佳《よ》い心持《こころもち》がしない、こんな場所だから昼間でも人通りが頗《すこぶ》る少ない、殊《こと》に夜に入《い》っては、甚《はなは》だ寂しい道であった。
私は将監橋の方から、この黒塀の側《そば》の小溝《こみぞ》に添うて、とぼとぼと赤羽橋の方へやって来た、眼の前には芝|山内《さんない》の森が高く黒い影を現しておる、後《うしろ》の方から吹いて来る汐風《しおかぜ》が冷《ひ》やつくので、私は懐《ふところ》に手を差入れながら黙って来た、私の頭脳《あたま》の内からは癩病《らいびょう》病院と血痕の木が中々《なかなか》離れない、二三の人にも出会ったものの、自分の下駄の音が
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