あはれなりわが身のはてや浅みどりつひには野辺の霞とおもへば
[#ここで字下げ終わり]
「浅みどり……」のこの歌はたくましい。彼女がふるさとのみちのくまで帰つてゆく途中で死んだといふ伝説も本当であつたやうな気がする、このたくましさは少し位のことで弱りはしない、行くところまで行かうとしたのであらう。昔の秀れた女たち、小野小町、和泉式部、式子内親王、それからわれわれの時代に生きた與謝野[#「與謝野」は底本では「輿謝野」]晶子。かれらはするどい才智とたくましい心を歌に投げ入れて生きてゐたのであつた。
晶子の歌集を全部大森の家に置いて来たので、私の手もとには遺稿の「白桜集」だけしかないけれど、今その内から少し抜いて、千年か二千年に稀にうまれ出るすぐれた歌人たちの心に触れて見よう。ふしぎにも「白桜集」の歌は若かつた日の彼女の歌とは異つたものを伝へる。
[#ここから2字下げ]
一人出で一人帰りて夜の泣かる都の西の杉並の町
青空のもとに楓のひろがりて君なき夏の初まれるかな
君がある西の方よりしみじみと憐れむごとく夕日さす時
心病み都の中を寂しとし旅の野山を寂しとすわれ
木の葉舞ふ足柄山に入りぬべく
前へ
次へ
全6ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
片山 広子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング