われまたも出づ都のそとに
われにのみ吾嬬川《あがつまがは》をわたる日の廻り来れども君あづからず
音もなく山より山に霧移るかかるさまにも終りたまへる
遠く見て泡の続くに過ぎざれど君も越えつる江の島の橋
わが背子の喪を発したる日の如く網引く人のつづきくるかな
近づかば消えて跡なくなりぬべき伊豆こそ浮べ海の霞に
危さは三笠湯川の吊橋とことならぬ世に残されて生く
霧来り霧の去る間にくらべては久しかりきな君と見し世も
やうやくにこの世かかりと我れ知りて冬柏院に香たてまつる
雨去りてまた水の音あらはるるしづかなる世の山の秋かな
わが越ゆる古街道の和田峠|常《とき》あたらしき白樺しげる
黒猫が子の黒きをば伴ひて並木に遊ぶみづうみの岸
源氏をば一人となりて後に書く紫女年わかくわれは然らず
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(越後長岡に遊んだ時の歌)
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わが車千里の雪をつらぬきて進める日さへ心あがらず
川ありて越《こし》の深雪《みゆき》の断面《だんめん》のうらめづらしさ極りにけり
信濃川踏むべからざる大道を越路《こしぢ》の原の白雪に置く
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「紫女年若くわれは然らず」の
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