りせばさめざらましを
うたたねに恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき
いとせめて恋しき時はうばたまの夜《よる》の衣をかへしてぞきる
夢路には足もやすめず通へども現《うつつ》にひと目見しごとはあらず
岩の上にたび寝をすればいとさむし苔の衣を吾にかさなむ
わびぬれば身をうき草の根をたえてさそふ水あらばいなむとぞ思ふ
日ぐらしの鳴くやま里のゆふぐれは風よりほかに訪ふ人もなし
木枯の風にもみぢて人知れずうき言の葉のつもる頃かな
ちはやふる神も見まさば立ちさわぎ天の門川《とがは》の桶口《ひぐち》[#「桶口《ひぐち》」はママ]あけたまへ
卯の花の咲ける垣根に時ならでわが如《ごと》ぞ鳴く鶯の声
あるはなくなきは数そふ世の中にあはれいづれの日までなげかむ
はかなくて雲となりぬるものならば霞まむ方をあはれとも見よ
吹きむすぶ風は昔の秋ながらありしにも似ぬ袖の露かな
ながめつつ過ぐる月日も知らぬまに秋の景色になりにけるかな
春の日の浦々ごとに出でて見よ何わざしてか海人《あま》は過ぐすと
木の間よりもり来る月の影見れば心づくしの秋は来にけり
あはれてふ言こそうたて世の中を思ひはなれぬほだしなりけれ
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