は青に紅の交りあつた色かとおもはれる。亡くなつた妹《いも》と二人で作つた山斎《しま》は黒くさへ見えるほど深い緑である。
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「一本のなでしこ植ゑしその心誰に見せむと思ひそめけむ
「秋さらば移しもせむと吾が蒔きし韓藍《からあゐ》の花を誰か採みけむ
「朝霧のたなびく田居に鳴く雁をとどめ得むかも吾が屋戸の萩
「栽《う》ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ花こそ散らめ根さへ枯れめや
「暁と夜鴉なけどこの丘の木末の上はいまだ静けし
「長からむ心も知らず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ
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 なでしこは夏から秋につづく。これは濃い紅である。韓藍《からあゐ》の花は紅よりも赤であらうか? 朝霧は白く萩の花は紅く、雁の鳴く田はもう黄ばんでゐるだらうか? まだ少し早い? 業平の「栽ゑし植ゑば」は黄ろい菊と思はれるが、それとも白菊でもあるか? 丘の木々の上はまだ静かな暁、これは白く、それにうす暗いもの、黒が残つてゐる。黒髪の乱れる朝を私は春でも夏でもなく、秋の景色に見た。黒髪の黒い色はあまり強くない、気分はさめかけた紫、なほも行末を頼むうす紅の色、同時に現在から未来にかけ
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