る。絵の方は少しも知らないから私には何も言へないが、自分の好む道、短歌の中ですこしばかりこの色別けをしてみようと思つた。古歌についてである。現代の歌の色彩はかなり強いものがあるやうだけれど、古歌の色はすべて淡い。そして一つの色でなくいくつもの陰影や感じがふくまれて別の色に見えることもある。織物に玉虫いろといふのがある、それに似てゐる。
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「石ばしる垂水《たるみ》の上のさ蕨のもえいづる春になりにけるかも
「春日野の雪間をわけて生ひ出づる草のはつかに見えし君かも
「水鳥の鴨の羽のいろの春山のおぼつかなくも念ほゆるかも
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これはまだ春浅い日ごろ、青といへないほどのうす黄の色、白も青もある。いはゆるケルトの暦の、自然が虹を織るといつた「希望の月」二月のほの温かいものがふくまれてゐる。
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「わが背子が見らむ佐保道《さほぢ》の青柳を手折りてだにも見むよしもがも
「春の野に霞たなびきうらがなしこの夕かげにうぐひす鳴くも
「春日野《かすがぬ》に煙立つ見ゆをとめらし春野の菟芽子《うはぎ》採みて煮らしも
「春の野に董摘まむと来し吾ぞ野を
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