いう庭園的の国土に生ずる秩序なき、淡泊なる、可憐なる、疲労せる生活及び思想の、弱く果敢き凡ての詩趣を説明するものであろう。
[#7字下げ]八[#「八」は中見出し]
然り、多年の厳しい制度の下《もと》にわれらの生活は遂に因襲的に活気なく、貧乏臭くだらしなく、頼りなく、間の抜けたものになったのである。その堪《た》えがたき裏淋《うらさび》しさと退屈さをまぎらすせめてもの手段は、不可能なる反抗でもなく、憤怒怨嗟《ふんぬえんさ》でもなく、ぐっとさばけて、諦《あきら》めてしまって、そしてその平々凡々極まる無味単調なる生活のちょっとした処に、ちょっとした可笑味《おかしみ》面白味を発見して、これを頓智的な極めて軽い芸術にして嘲《あざけ》ったり笑ったりして戯《たわむ》れ遊ぶ事である。桜さく三味線の国は同じ専制国でありながら支那や土耳古《トルコ》のように金と力がない故|万代不易《ばんだいふえき》の宏大なる建築も出来ず、荒凉たる沙漠や原野がないために、孔子《こうし》、釈迦《しゃか》、基督《キリスト》などの考え出したような宗教も哲学もなく、また同じ暖い海はありながらどういう訳か希臘《ギリシヤ》のような芸
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