不品行を責め罵るなぞはちょっと輸入的ノラらしくて面白いかも知れぬが、しかし見た処の外観からして如何にも真底《しんそこ》からノラらしい深みと強みを見せようというには、やはり髪の毛を黄《きいろ》く眼を青くして、成ろう事なら言葉も英語か独逸語《ドイツご》でやった方がなお一層よさそうに思われる。そもそも日本の女の女らしい美点――歩行に不便なる長い絹の衣服《きもの》と、薄暗い紙張りの家屋と、母音《ぼいん》の多い緩慢な言語と、それら凡《すべ》てに調和して動かすことの出来ない日本的女性の美は、動的ならずして静止的でなければならぬ。争ったり主張したりするのではなくて苦しんだり悩んだりする哀れ果敢《はかな》い処にある。いかほど悲しい事|辛《つら》い事があっても、それをば決して彼《か》のサラ・ベルナアルの長台詞《ながぜりふ》のようには弁じ立てず、薄暗い行燈《あんどう》のかげに「今頃は半七《はんしち》さん」の節廻しそのまま、身をねじらして黙って鬱込《ふさぎこ》むところにある。昔からいい古した通り海棠《かいどう》の雨に悩み柳の糸の風にもまれる風情《ふぜい》は、単に日本の女性美を説明するのみではあるまい。日本と
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