のひら》でぽんぼんと煙草の吸い殻を落として、眤《じ》っと、項垂《うなだ》れた菊枝の顔を凝視《みつ》めた。
「菊枝! 貴様は、年も行かねえのに、いろいろど気がついて働いでくれで、仲々感心な奴だと思っていだら、もっての外の考えをもっていんなや?」
 菊枝は、黙々として項垂《うなだ》れ続けた。祖父は幾分後悔の気持ちで刻《きざ》み煙草を燻《くゆ》らし続けていたし、祖母はかばってやらねばならぬ折を、おどおどしながら待っていた。
「今までは本当に、全く感心な奴だと思っていたのに……今からは、そんなごってはなんねだでや。この通り、俺家《おらえ》ど言うもの、稼ぐ者ってば、俺とお前ばかりだべ。母《がが》は母で病身だし、他《ほか》は、年寄りわらし[#「わらし」に傍点]ばんだ。――そして、貴様になど、どんなことあったって、受かりこなどねえんだ。毎日それにばり一年もぶっ続け勉強した、かしゅくさんせえ、落第したんだもの。」
「百姓の子は……」祖父が突然口を入れた。「みっしり百姓のごとを習って、いいどこさ嫁に行けば、それでいいんだ。学《がく》で飯を食うべと思わねえで……」
「そんな、柄《がら》であんめえちゃ。」

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