緑の芽
佐左木俊郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)燦爛《さんらん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夜|更《ふ》かし勝ちな

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)わらし[#「わらし」に傍点]
−−

     一

 弾力に富んだ春の活動は、いたるところに始まっていた。
 太陽は燦爛《さんらん》と、野良《のら》の人々を、草木を、鳥獣を、すべてのものを祝福しているように、毎日やわらかに照り輝いた。農夫は、朝早くから飛び起きて、長い間の冬眠時代を、償おうとするかのように働いていた。
 菊枝はまだ床の中で安らかな夢に守られているらしかった。父親は、朝飯前にと、近所へ出掛けたきり、陽《ひ》は既に高く輝いているのにまだ戻らなかった。祖父は炉端《ろばた》で、向こう脛《ずね》を真赤《まっか》にして榾火《ほだび》をつつきながら、何かしきりに、夜|更《ふ》かし勝ちな菊枝のことをぶつぶつ言ったり、自分達の若かった時代の青年男女のことを呟《つぶや》いていた。そして時々思い出したように、どうしても我慢がならねえ……と言うように、菊枝
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