は、俺が言わなくたって……松三はなんと思うか知らねえが。俺は、百姓の娘《こ》がこんなごっては……」
 祖母が横から、祖父の顔を睨《にら》むようにして、そして祖父の言葉尻を捉えるように言った。
「そんなこと言ったって、爺《じん》つあまや。何しろまだ十六だもの……裁縫《てど》習《なれ》えにもやんねえのだもの、考《かんげ》えで見ればこのわらしも……」
 祖母はまず自分自身の哀れなオールライフを涙|含《ぐ》ましく思った。
「考《かんげ》えで見れば、可哀想ださ。ほんでも、朝っぱらから、寝床の中で、書物を読んでるなんて、百姓の娘が……」
「学校の先生様になんのだぢゅうもの、何、いがすぺちゃ」と、黙り続けていた継母が突然口を入れた。
 松三は食事の間、一言も口をきかなかった。食事が済むと、しかし悠長に煙管《きせる》をくわえて、何事をおいても、この事を解決してしまわねばならないというような表情で、けれども、全く落ち着き払った態度で……。
「菊枝! 台所が済んだら、ちょっとここさ来《こ》うまず。」
 菊枝は台所からおどおどしながら出てきて、窮屈な雪袴《ゆきばかま》の膝を板の間に折った。
 父親は、掌《て
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