なっても寝くさってがる。身上《しんしょう》だって財産《かまど》だって、潰《つぶ》れてしまうのあたりめえだ……」
彼女の継母《ままはは》は、祖父のこの呟《つぶや》きを、快く聞き流しながら、背中に小さな子供を不格好に背負い込んで囲炉裏《いろり》で沢山の握り飯を焼いていた。
祖母は戸外から這入《はい》ってきて、あまりにも口やかましい祖父に、不機嫌な視線を投げかけた。併し、祖父はそれどころではなかった。もう既に焼き飯も焼けているのに、菊枝が起きてこないと言うだけのことで、魚を漁《と》りに行く時間が遅くなるのに、まだ朝飯にならないのだから。子供達も、学校の時間に急《せ》きたてられながら、飯になるのばかりを待っていた。
「学校さ行く小児《こども》も、やきもきしていんのに……」
祖父は最後にこう呟いて、真赤にやけた向こう脛《ずね》を一撫《ひとな》でして腰を伸ばした。そして、菊枝を蹴起こしてやるというような意気込みで、彼女の寝ている部屋に這入って行った。
二
みんなが食卓のまわりを襤褸束《ぼろたば》を並べたように取り巻いて、いざ食事にかかろうとしているところへ、彼女の父親が他所《
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