んは雨戸を繰《く》り開《あ》けて、縁側に蹲《しゃが》んでいた。月光に濡れて、お婆さんの顔はなお、一入《ひとしお》蒼白かった。
「そんなところで、何しているの? 婆《ばば》さんは。」
 お美代は、雨戸に手をかけてその後ろに立った。
「柿の葉も、皆落ちでしまったなは。」
 お美代も、お婆さんと一緒に戸外の景色を眺めた。――実をもぎ取られた柿の樹は、その葉も大方振り落として、黒い枝が奇怪なくねりを大空に拡げていた。柿の樹の下に並んだ稲鳰《いなにお》の上に、落ち散った柿の葉が、きらきらと月光を照り返している。桐の葉や桑の葉は、微風さえ無い寂寞《せきばく》の中に、はらはらと枝をはなれている。遠くの木立ちは、すべて仄《ほの》黒く、煙りだっていた。そして、丘裾の部落部落を、深い靄《もや》が立《た》ち罩《こ》めていた。
「婆さん。風邪《かぜ》引ぐど大変だから。」
 お美代は、いつまでも戸外の風景に眼を据えているお婆さんを促《うなが》した。
「うむ。――今年は、稲鳰《いなにお》、六つあげだようだな。小作米出した残りで、来春《らいはる》までは食うにいがんべな。」
「鳰一つがら、五俵ずつ穫《と》れでも……婆
前へ 次へ
全16ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング