さん、そんな心配までしねえだって。さあ、風邪引ぐがら。」
「うむ。小便しさ起ぎだのだげっとも、動がれなくなったはあ。――俺、米の無くならねえうぢに死にでぇんだ……」
「そんなごと言って、まだ死んでられめちゃ、婆さん。」
お美代は、蹲《しゃが》んでいるお婆さんを、後ろから、室の中に抱き入れた。
床の中は冷たくなっていた。夜の冷気は犇々《ひしひし》と身に迫って来た。お婆さんは、両足を縮《ちぢ》めて、小さくなって見たが、やはりぞくぞくするばかりであった。だが、寝床の中で震えながらも三十分間ばかり我慢して見た。
併し、お婆さんは、いつまで経っても、もう寝床に親しむことが出来なかった。このまま凍り付いてしまいそうにさえ思われた。
「松! 松! 松やあ!」
お婆さんは、お美代を起こす気にはなれなかった。
「松やあ! お湯わかして呑ませで呉《け》ろ。」
併し、誰も返事をしてくれるものは無かった。お婆さんはまた自分の寝小便を思い出した。眼だけが温かくなって来た。
しばらくすると、誰か囲炉裏《いろり》の方へ起きて行く気配がした。お婆さんは耳を澄ました。足音は戸外へ出て行った。ごくりと唾を嚥《
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