―新田さ嫁に行ぐが、鉈《なた》で顔剃らせるが――って話は聞いでいだげっとも。」
「なじょして、この辺《へん》の男達よりも、もっと荒仕事しさせられんのだもの、新田の方では。」
「女の仕事の荒いの、新田のようだって言ってるぐらいだから……」
お婆さんは、また枕に頭を横たえた。電話口へ耳をあてるようにして。
「おらは、どこさも行がねえもは、婆さん。一生家にいで、独身《ひとりみ》で、叔母様ではあ、この家にいで稼いで助けるもは。おら、どこさも行がねは。」
「うむ? それさな。――やっぱり、新田さ行ぐより、町さ行った方がよがったがな。」
お婆さんは、自分がこの老衰の床に就く一月ほど前、町の方へ嫁に行くことに話が纒《まと》まりかけていたお美代を、無理矢理に新田へ、土地の素封家《そほうか》だと言うことだけで、いろいろと口説き落とした自分であったことを、ぼんやり思い出した。
「やっぱり、町さ行った方がよがったがな。財産など、なんぼあったところで、お墓の中さまで持ってがれるもんでねえし……」とお婆さんの話は、なんだか自分のことを言っているようでもあった。
お美代は前掛けの端を噛んでいた。そして、その
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