水!――どうも眼が霞《かす》んで。」
お婆さんは口まであけて、顎《あご》をこすりつけているように、顔を布団に埋めながら低い声で言った。
「あ、お美代が? 今朝来たのが?」
「うむ、今朝。」と、うなずきながら、お美代は茶碗に水を注ぎ満たした。
「大変《おっかねえ》まだ早ぐ来たで。――どんな風だ大崎の方は? 仕事の早い処だぢ、田畑《たはた》の仕事は片付いてしまったがあ。」
お婆さんは静かに寝がえりながら、低い消え入るような声で吐切れ吐切れに言った。お美代は茶碗を取ってお婆さんの方へ出した。お婆さんは布団の中から、痩せた青筋の節《ふし》くれだった大きな手を出したが、手はなかなか伸びそうもない。手よりも先に、頤《あご》の方が出て行った。
「なんだけえ、まず、お美代。汝《にし》の手は……」
お婆さんは、ごくりごくりと咽喉《のど》を鳴らしながら水を呑んだ。お美代はすぐに眼を伏せて、膝の上の自分の手を見た。玄《くろ》い肌には一面の赤い皸《ひび》だった。節々《ふしぶし》は、垢切《あかぎれ》に捲かれた膏薬で折り曲げもならぬほどであった。
「新田《にいだ》の方はそんなに仕事がひどえのがあ、お美代。―
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