を下げた。
「頭せえ下げて置けば、大概間違いはあんめえから……」という意識が、無意識のうちに彼の心に動いていたのであった。
「竜雄です。天王寺の竜雄です。」と、青年は名乗った。
「あ、竜雄さんでがすか?……」
梅三爺は思い出したように、また懐《なつか》しそうに言って青年の方へ歩み寄った。梅三爺は、その若き日の過去を、幾年となく竜雄の家に雇われてきたのであった。市平もまた、田園|遁走《とんそう》までの四五年を、父親の後を引き継いでいたのであった。
二
刈り倒された青草を藉《し》いて二人は腰を下ろした。
「今日は、なんの方でがす。山遊びしか?」と梅三爺は訊いた。
「山遊びなんて、僕もそんな暢気《のんき》なことはしていられなくなってね。今日は、山巡りに来た序《つい》でなものだから……どうも草盗まれて、萱《かや》まで刈られんので……」
「あ、ほうしか。」
爛《ただ》れた眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》くようにして、梅三爺はもう一度彼の姿を見直した。
「山は、まったくいいですね。」と竜雄は、あらためて四辺《あたり》を見廻すようにした。
「え、山はね。宜
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