》であんめえが?」
「なに? 配達《へえたつ》? ほんではまだ、兄《あん》つあんどこがらでも来たがやな。」
「なんだ? 巡査様だがもしせねえ。」
 養吉は、雑草の中から伸びあがった。
「なんだど? 巡査様だど?」
 その訊き方はちょっと狼狽《あわて》ていた。同時に梅三爺の顔には、さっと不安の表情が流れたようであった。「市平が、何か悪《わり》ごどでもしたのであんめえがな?」と彼は思ったのであった。彼は、伜《せがれ》の市平のことについては、ただそればかりが気になっているのであった。
「巡査様、なにしに来たべな?」と、梅三爺は不安の中から繰り返した。
「白いズボンはいで、黒い服だげっとも……巡査様でねえがな?」
 よし[#「よし」に傍点]はぽかんと口をあけて、雑草をわけて近付いて来る白ズボンの人を、背伸びをして見極めようとした。蒼白い飴《あめ》のような洟《はな》が、今にも口の中に垂れ込みそうであった。
 眼鏡《めがね》をかけた白ズボンの青年は、いよいよ梅三爺とは五六間程の距離になった。爺は、それが巡査でないことだけは判《わか》った。が、どうも役人らしいので、二度三度と、四度までも続けざまに頭
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